言うべきだった言葉

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――で、でも!あいつらと再会なんか、そんなことあるわけない!僕は、あいつらと縁を切ったんだ。もう二度と、出会うことなんかないはずなんだ。だって奴らは、この大学には合格できなかったんだし……!  いや、と。もうひとりの僕が、心の中で言う。  学校が変わっても、遭遇してしまう可能性もあるはずではないか。なんせ家を引っ越したわけではなく、住んでいる地域そのものは変わらない。それこそ駅や公共施設で不運にも、なんてことが本当にないと言い切れるのか。 「嘘だ!」  突然降って湧いたその記憶を封じるように、僕は叫んだ。 「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!そんなの嘘だあ!」  そうだ、そんなはずがない。  大学の最寄り駅。  電車を待ってベンチに座っていたら、急に目の前にあいつらが現れた。  久しぶり、なんて言いながら。また遊ぼうぜ、連絡先教えろよと声をかけてきたのである。また奴隷にしてやるからよ、と――あの写真を見せつけながら。  僕はパニックになって、悲鳴を上げながら逃げた、逃げた。  もう二度と会わずに済むと思っていたのに、そのために頑張ってきたのに、何故こんなことになるんだろうと。駅の階段を泣き叫びながら降りようとした、その瞬間に足を踏み外して――それで。 ――そうだ、あの時。僕は必死で……改札の外へ、大学まで逃げようとしてた。そこまで行けばあの優しい場所が、僕を守ってくれるような気がして。  ああ、だから。  僕はずっとこの場所から、出られないまま。 「貴方は、男性がとても怖かった。だから、安らぎを女性に、恋人に求めたかったのね」  でもね、と。くしゃり、と秋穂の顔が歪む。悲しそうに、切なそうに、苦痛を堪えるっように。 「でも、それでは救われないの。だって……私達は、絶対に結ばれない。貴方は、」  それを告げられた瞬間、どろり、と視界が溶けるように消失した。すべての音が遠ざかるの中、最後に聞こえたのは秋穂の小さな呟き。 「貴方が私と、同じ世界の人なら良かったのに」  握り締めた秋穂の手の感触さえ遠くなる刹那、僕は思ってしまった。 ――ああ、秋穂だけでも、一緒に連れて行けたら良かったのに。  そう思ってしまった時点できっと。  僕はもう、人間ではない別の何かになってしまっていたのだろうけど。
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