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 常識を遙かに超える優秀な人材にとって、過重労働の場を失うのは死活問題である。しかし、監督官も流石はプロだ。重箱の隅を(つつ)くように外堀から包囲網を狭め、遂には我が社の化けの皮を剥がしてしまった。それもこれも我々社畜が優秀すぎたからとは皮肉なものである。    巧妙に巧妙を重ね完璧に偽装していたことが仇となり、我が社はマスコミの恰好の餌食となった。役所お得意の、見せしめに選ばれてしまったことが致命傷となり、会社は超一流企業から転落し、希望退職者を募るところまで一気に落ちぶれてしまっていた。  希望退職者募集には罠がある。それは、転職に有利な優秀な人材から最初に辞めてゆくことだ。我が社は、企業リテラシーを遵守する会社へと生まれ変わり、優秀な社員であっても法規制の枠内で働くことになる。我々のような有能な社畜が存分に力を発揮できる職場ではなくなってしまったのだ。有能な社畜達はさっさと退職していった。新しい過酷な戦場を目指すのだろう。そしてDも……。  社畜チームのリーダーとして、最後まで会社に残り、残務整理していた俺は、普通の社員達を横目に、最期の締めとして、仮眠室の後片付けに着手することにした。
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