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Aは既に脱出したのか。そう安堵した俺の鼻腔を、言いようのない不快な臭気が襲った。
恐る恐る仮眠室にある照明スイッチに手を伸ばす。電燈は切れてしまっているようだ。仕方なく暗闇に目を慣らしながらゆっくりと仮眠室へと侵入する。暗闇に入り目が慣れてくると、蒲団が薄白く浮かび上がった。その上には誰か座っているように思える。俺の背筋を得体の知れない汗が流れ落ちる。声も出せず、ただ這い寄っていった、その蒲団の上には――
「こちらが労働者の護り仏として、廃オフィスの一画に建立されました、世にも珍しい仏閣社畜寺の、ありがたい即身仏様でございます。そして、僭越ながらわたくしHの出家にいたった経緯でございました。南無阿弥御陀仏」
〈了〉
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