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Ⅱ
とまぁ、そんなわけで、今日も今日とて朝まで徹夜して全力を出し切った満足感と、仕事を完逐した充実感のご褒美、脳内麻薬を味わっていた早朝に、些細な事件が起こったということだ。
Aは小さい頃から英才教育を受け、のちは官僚、政治家になるレールの上を懸命に走り続けた秀才タイプだったらしい。我が社に入社したのも、社会経験を積む程度のほんの軽い気持ちだったに違いない。ところがである、世の中は広い。進学校で常にトップのA程度の才能など、我が社にはゴロゴロ居るのである。もちろん入社早々先輩には付いていけない。同期入社はたちまちの内にリタイヤしてゆく、このままでは自分も落伍者の烙印を押されてしまう。人生初の挫折を目の前にして、自分が井の中の蛙であったことを突きつけられた、Aの焦りは十分に理解できる。学歴社会の理想と実力社会の現実とのギャップに躓き足をすくわれ、自己崩壊するのは致し方ない。我が社ではよくあることだ。誰しも挫折し、栄光の頂点から奈落の底へと突き落とされ燃え尽きて後、不死鳥のように蘇った者だけが、選ばれし者、エリート社畜として認められるのだから。
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