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Ⅰ
ある日の残業、というより徹夜明けの朝、新入社員のAが壊れた。
突然、自分の机の上に駆け上ったかと思うと、Aはターザンよろしく盛大な雄たけびを発し、黄金色の金属バット、通称黄金バットを振りかざし、近くに居たベテラン社員Bの頭を見事にフルスイングした。
まだ夜も明けぬ早朝のオフィスである。仕事明けの、ぼんやりとした意識に浸る俺たちの耳に、金属バットが芯を捉えた、入道雲を遙か遠くに望む真夏の大空を思わせる爽快な金属音が響き渡った。
「ナイスバッティング!」
「ナイスショット!」
野球好きの俺が、往年の王貞治の一本足打法の流れるようなスイングを思い浮かべ、思わず叫んだところへ、最近ゴルフに嵌っているというCはタイガー・ウッズあたりを思い浮かべたらしく、ゴルフのインパクトに聞こえたらしい。
俺とCは、暫く虚ろな目をお互い見合わせた。Cは少し納得いかなさそうな目をしていたのだが、もちろん俺も納得いかない目をしていたに違いない。Cは音だけしか聴いていなかったのだが、俺はAが繰り出した大きなモーションからの見事なスイングで、Bの頭をホームランにするところを、この目でしっかりと目撃しているのである。徹夜明けの朦朧とした幻想的意識の中で、ではあるが。
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