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ところで罰ゲームは?
「しりとりしよう!」
学校からの帰り道、突然渚がそんな事を言い出した。
また何か企んでいるらしい。瞬きが多い。
最近ずっとこんな調子だ。
何にしても渚との事はどんな些細な事でも嬉しいから俺に文句はない。
そして俺は全敗していて、もう九連敗している。
「しりとりの『り』からで、りんご」
にこにこと楽しそうな渚の笑顔。
渚が楽しいなら何でもいいか。
「ゴリラ」
「ら、らっぱ」
「パキラ」*植物の名前
「ら、ら……らくだっ」
ふむ。このまま『ラ攻め』してもいいが、俺は勝負に勝ちたいわけじゃない。
眉間に皺が寄り始めた渚の顔がかわいいけど、あまりいじめ過ぎてもいけない。
「ダイオキシン」
「!哲の負けー!哲、頭いいのにしりとり弱いなー」
ぱぁっと笑顔になる。本当かわいい。くすくす。
「―――でさ、これで十連敗なわけだけど、罰ゲームはないの?」
「ば…罰、ゲームは、ある……!」
ゴクリと渚の喉が鳴ったのがわかった。
「ふーん。どんな?」
「………」
声が小さすぎて聞こえない。
「ん―?聞こえなかった。もっかい言って?」
「―て……な…ご……」
「聞こえないよー?」
「……うぅ…」
涙目になる渚。本当は渚の口からはっきりと聞きたかったけど……。
「――渚、遅くなったな。暗くなる前に帰ろ」
「え、あ、うん。かえろ…」
しょぼんと肩を落とす渚。
俺はふっと小さく笑って渚の手を取った。
ぼわりと音がするほど真っ赤になって俺の事を見る渚。瞳が濡れている。
俺はそれに気づかないふりで手を繋いだままで走り出す。
『手繋ご』
本当はちゃんと聞こえてた。
罰ゲーム十回分が手を繋ぐだけなんて…本当どんだけかわいいの。
罰ゲームになんかかこつけなくてもいくらでも手を繋ぐしいくらでも抱きしめてキスをして……それ以上の事もしたいのに。
俺のかわいい恋人は『手を繋ご』そんな事も恥ずかしがってなかなか言い出せない。
キミは臆病だから、俺からぐいぐいいって逃げてしまわないように。
キミと今は手を繋ごう。それだけで俺は幸せだから。
-終-
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