先に好きって言ったら負けだから

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先に好きって言ったら負けだから

「先に好きって言ったら負けだからな」 試験勉強をする為に俺の家で向かい合って座る小暮渚(こぐれなぎさ)が突然そんな事を言った。 渚とは幼馴染で長年の片恋を経て、つい最近恋人になったばかりだ。 いきなりだな、と思ったが不自然に多くなった瞬きに何か企んでいると分かる。 「わかった」 とだけ答え、ノートにペンを走らせる。 カリカリと文字を書く音だけが部屋に響く。 「………」 そわそわと物言いたげな渚の気配を感じるが、あえて気づかないふりをする。 「(てつ)、こ、これ食べるか?」 ごそごそと鞄から出したのはチョコレートの箱だった。 それは最近の俺のお気に入りの粒チョコ。 「これ、お前気に入ってただろう?」 「そうだね。おいしいしね」 「ほら」 渚はそう言うとチョコを一粒俺の口に入れた。 俺を見つめる渚の瞬きは多い。 「ほら、もっと食え」 ぽいぽいと何個も口に押し込もうとする渚。相変わらず瞬きが多い。 「ちょ、ちょっと待てって、そんなに入らないからっ」 拒否る俺にしょんぼりと肩を落とす渚。 「だって……哲、これ……き…だろう?」 「ん」 あぁ…そういう事か。俺は小さくくすりと笑った。 「渚、次の試験やばいんじゃなかった?みてやるからちゃんと勉強しろよ」 ちょっとだけ意地悪をする。 「―――うん……」 しょんぼりしたまま教科書を開き勉強を始める渚。 そっと耳元に口を寄せ小さく「好き」って囁いた。 ふいをつかれて真っ赤になる渚。 「い、い、い、言ったな??哲の負けだから、な?」 慌てながらそういうキミが真っ赤な顔して嬉しそうに笑うから。 俺はいつも『負け』でいいと思うんだ。 「そうだな。俺の負けだ。渚、好きだよ」 -終-
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