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お祓いするのは簡単だが、付喪神もろとも綺麗さっぱりやってしまうのは問題があり過ぎる。それらがいなくなったとしてもこの宿が潰れる可能性もあるというのは――さすがにそれは本望ではなかろう。
「でもお客様に迷惑が掛かるのは困ります」
「そんなの簡単に解決できるじゃないか」
得意げに鼻を鳴らした京介に、皆の視線が集まる。
「――座敷童と気が済むまで遊んでやったらいいだけだろ?」
「え?」
一言呟いて続く言葉を無くした大女将は深く眉間にしわを刻み、若女将もどういう顔をしていいのか躊躇っている。
「あやかし連中は彼らが満足すれば悪さはしなくなる」
神妙な顔をして考え込む様子の若女将は想ったより立ち直りが早かった。
「遊ぶと言っても姿が見えない相手にどうしたらいいんでしょうか?」
「だから、俺らがここに来たわけだ」
「本当に大丈夫なんですか?」
心配そうに大女将が尋ねてくる。
楽しそうに笑う京介に不安を感じたのだろう、二人の眉間の皺は深いまま。
細くため息をついて啓一郎が補足する。
「恐怖心があれば天井の染みもあやかしに見えるものだ」
「はぁ……」
「この世の境で迷っている連中に道を示してやれば成仏する」
「まあ、この宿には長い時代を経ても大切にされた物がたくさんある。つまり、大勢の付喪神がいる。そいつらも持て余してるみたいだし座敷童の相手をしてもらえばいいだろう。要するに友達になってくれそうなお仲間を探すんだよ」
と、早速スカウトを試みたわけだが。
――オーディション会場は仕事を終えた帳場前のラウンジ。
トップバッターは少しばかり色あせたウサギの縫いぐるみ。
愛らしいピンクの毛並みに大きな黒いボタンのきらきらお目々。首元にはくたびれたブルーの蝶ネクタイ。……実は帳場の隅に置かれてあった誰かの忘れ物。
一体いつからここにあったのか誰も覚えていない。
持ち主から連絡があるのではと処分できずに預かり続けて今日に至る。
さすがに持ち主はもう縫いぐるみに頓着する年齢でなくなっている可能性が高い。
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