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「――というわけだ」
京介の声にガラスのテーブルでそいつはこてりと首を傾げた。
まるで生きているかのような動き。
「嫌よ」
「お前も付喪神になるほど可愛がられてきたんだろ?」
「可愛がってもらった? 冗談でしょ? あいつらはね鬼よ、鬼。あたしの耳や足をもってぶん回したり、引きずられたり。布団の中で朝まで首を絞め続けられたり、蹴飛ばされたり」
と長い耳を振り乱して怒り心頭である。
子供がお気に入りのぬいぐるみを持ちまわる姿。見方を逆に変えれば拷問に近いのかもしれない。
なんともほほえましい姿はぬいぐるみ本人にしてみればたまったものではない。
「それに大事ならどうして迎えに来ないのよ!」
付喪神になる素質を持ちながらここに取り残された恨みがあるものだからタチが悪い。
「見てよ、耳だって取れかけてるのよ。色だって綺麗なピンクだったのに! 子供なんて嫌いよ。よそをあたって頂戴」
つんと、プラスチックの鼻を逸らせた。
「――こうなることは分かっていなかったのか?」
「可愛がってくれてた結果なんだけどな……恨みは深いかぁ」
あきれた啓一郎の声にぬいぐるみに戻ってしまったウサギを撫でて苦笑する。
さすがに一件目では諦めない。次だ。
子犬の縫いぐるみに、どこかの民芸品と思われる人形。座敷童の相手と聞くと次々と断られてしまった。
「おもちゃというのが悪いのか?」
「無邪気にひどいことをされているようだからな。子供と聞くだけで嫌なのかもしれん」
鼻を鳴らす啓一郎に京介はげんなりと溜息をついて、思案する。
「――冗談じゃない。子供の相手なんて真っ平だね」
としゃべるのは先ほど京介と話していた――床の間の壺。
物はどうだろうと話をしてみることにしたのだ。
コトコトと瀬戸物の躯体を揺らし、今にも床に転げ落ちそうだ。
「相手はあの座敷童だろ? 冗談じゃない。俺らは被害者だ。毎日大人しく座ってお客を出迎えるのが俺の仕事だってのに。あいつと来ちゃ畳の上を転がすわ、腹の中にゴミくず詰められるわ、ひっくり返されたときはちょいと欠けちまってお釈迦だと思ったね。俺らは年代物でデリケートなんだよ。毎日いつ真っ二つに割られるかとひやひやしてんだよ」
饒舌な文句が出てくる、出て来る。
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