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つづいて神経衰弱。小さい子供は柔らかい脳みそで物覚えがいい。
ことねがたくさんの手札を取って京介や啓一郎にも勝った。
――こっそり、りんが耳打ちしていたことは大人として目をつぶる。
さらに出てきたのは色とりどりの小さなお手玉。
投げて遊ぶことはできても本来の遊び方はまだできない。両手に持って同時に上に投げるのが限界らしく、すぐに飽きて放り出した。
「簡単そうに見えるんだけどな……」
京介も見た事はあってもやるのは別だ。
ぎこちない手つきの二つが限界だ。やり方をすぐに飲み込んだ啓一郎は三つも扱い、彼が一番上手だった。
「何でできるんだよ?」
「こんなもの順番に繰り返すだけだろう?」
長いこと一緒にいるが相棒には意外な特技があったらしい。
そうこうするうち、ことねは途中で眠ってしまいソファーに転がって眠っている。よほど楽しい夢を見ているのか、その口元がにんまり笑っている。
「なんの夢を見てるんだろ?」
「夢の中でも遊んでいるつもりなのだろう」
頬を緩めた京介にそっけない啓一郎が応じる。
「お前はこの子を放って置けなかったんだろ?」
ここは鄙びた、とは聞こえがいいが要するにど田舎だ。
同じ年頃の友達の家は宿から遠く離れた集落にある。宿に子供が来たとしてもお客様だ。祖母を始めとした家族は宿の仕事で忙しく構ってはもらえない。
「一人で遊ぶこの子がかわいそうに見えたんだろう?」
睨むような目つきで京介を見ていたが。ややあって黒髪を揺らす。
細い柱の陰に隠れていた様子を思い出す。
「幼い今はお前の姿が見えているだろうが、それもいつまで続くか分からない。何より彼女には現実の友達が必要だ」
京介の向かい側に座って足を動かす姿に苦笑する。
「大丈夫。大きくなってもこの子はお前のことを忘れたりしないよ。楽しい思い出のまま姿を消すのも悪くないだろ? 大丈夫ちゃんとお前の友達もスカウトしておいた」
少しばかり口うるさい奴だけどな、と付け加えて人懐っこく笑う。
「そのうち学校へも通うようになるし。いろんなことができるようになる。お前がいなくなっても大丈夫だ」
ことねは若女将に引き取られ、部屋へと戻った。
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