1

1/1
前へ
/9ページ
次へ

1

私は生まれてから世の中を見た事がない。 そう、色も何もない世界で生きている。 物心付いた時から特別とか特殊だとか言われて来て意味が分からなかったのだけれど、普通の人達が私に対しての(くく)り方だと分かって悲しかった。 私もまた普通と言う言葉が私よりも優れた人達と思い込んでしまっていた事に腹が立った。 今も『花』とか言う物のカタチや色を教えられても想像すら出来ないんだよ。 それを知らない私は劣っているの? 指先で感じる貴方の形や香りや温もりや儚さは貴方が伝えたい事の多くを知る事が出来るのに。 あなたは知らないでしょ。 私の世界を。 人混みを這うように歩く時 私が持ってる全ての感覚が絶え間なく私に語りかけてくれる事を。 あなたが歩く足音。 少し窮屈な靴で足を締付けている音。 怒っている音。 嬉しい音。 そして歩く速さのリズムが奏でる感情。 海と言う世界は好き。 湿った空気と風が私の皮膚を撫でながら香りを残して行く。 塩っぱい水が絶え間なく不規則なリズムを奏でる時、その隙間に砂が混ざり合う音が聞こえる場所が好き。 私からあなたへ伝える術をあなたが思う以上に沢山持っているのを知っている? 私は言葉が出せない人を知っている。 沈黙の世界で生きている人を知っている。 歩く事が出来ない人も知っている。 そして暗闇の世界で生きてる人も知っている。 私はいつか自立したいと思っている。 自立って? 私の自立は何かをしたり、どこかへ行きたい時に誰かの帰りを待つ事なく出来る様になる事がまず1つの自立。 そして1人暮らしをする事。 なぁ~んだって思うでしょ。 でもそれが私の自立。 18歳の誕生日に自分と約束した自立。 それから何度も両親と話し合ったれど、やはり盲導犬との共同生活は不可欠のように思えた。 でも私は犬が苦手。 小さい頃 突然吠えられて心臓が止まりそうになり大泣きした日からトラウマになり犬の雰囲気を誰よりも早く察知する事が出来るようになった。 私の自立って... 一体どれだけ克服しなければならない事があるのだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加