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「そ、それどころじゃないよー。なんかすごい神聖な感じで、触るのも怖いくらいだもん」
こんなに立派なものを落とさないようにしなければと、それだけで精一杯である。ハラハラとしながらも真剣な顔付きで設置している。周にとってはそんな姿も実に可愛いらしく思えるものであった。
「ほら、橙はお前が乗せろ」
「いいの?」
「それとも二人で一緒に乗せるか?」
なんだか結婚披露宴のケーキ入刀を思い浮かべてしまうようなことを言われて、冰はポッと頬を染めながらもコクリとうなずいた。
「この橙もすごく大きくて立派なんだねー。葉っぱまでついてる! 向きはこっちでいいの?」
一つ一つ隣に立つ周に確認しながら慎重に飾る様子は真剣そのものだ。
「冰君ってば、ほんとに可愛いんだから!」
「冰さん、お上手ですよ」
紫月や真田らにも見守られる中、周の大きな手に添えられながら立派な橙を鏡餅の天辺にそっと供え付ける。
「よし、完成だ。幸先のいい年になるな」
無事に鏡餅を飾り終えると同時に周からクシャクシャっと頭を撫でられて、またしても頬が染まる。冰にとっては見るものすべてが珍しく、ひとしきり行事を楽しむことができた年の瀬であった。
年の瀬 - FIN -
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