例えば、こんな始まり

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「それにしてもあんなに酷かったのに綺麗になったもんだねぇ」 ソファーに腰を下ろした圭太は変わらずにこにことそう言った。出て行こうとしていた橘も諦めたようでいつものように脚を組んで不遜げに座っている。 「あまりの惨状に我慢できずについ。適当にしまったところもあるのでまたデスク周り確認してくださいね」 「あ、へーきへーき!必要なものなんか何にもなかったから」 「……そうですか」 テーブルにあるお菓子をぽりぽり食べながら笑う圭太に少し一色の眉が寄る。結構この書類は必要そうかとか気にしながら片付けたのでその労力が無駄だったと思うと初日の自分が報われない。 橘とはまた違う軽さにここにはこんな人しかいないのかと頭が痛くなりそうだった。 「こんな綺麗で有能な人どこで見つけてきたの?」 「拾った」 「捨て猫?」 「猫っつーよりぴーちくぱーちく口うるせぇから鳥?」 「ああ、チョウゲンボウ的な」 「いやせいぜいインコだな」 「綺麗なインコもいるもんねぇー」 なんだかとても不名誉な話をされている気がする。チョウゲンボウって何。 「あの!圭太くん?は何をされる方ですか?」 「もーけーちゃんでいいのにぃ。何って?」 こてん、と首を傾げる姿は可愛い。あざとい。 「除霊が出来たりするんですか?」 「あーうん、出来るよー。ここ最近もとぉーくまで出張に行ってたんだぁ」 「それはご苦労様です。あ、また領収書あれば早めにくださいね」 デスクの周りからあれよあれよとたくさん湧いて出てきた領収書の束を見るのはもううんざりだったので先に釘をさしておく。 一色の言葉に圭太は目をぱしぱしと瞬かせた。 「悠ちゃんは事務員さんなの?」 「いや、こいつは今から鍛えて生き霊専門にする」 「やらされてることは事務と掃除ですけどね」 じろりと睨みつけた一色を無視して立ち上がった橘は棚から水色の封筒を取り出し、圭太に向かって放り投げる。 綺麗に膝の上に乗っかった封筒を一瞥して圭太は再びお菓子に手を伸ばした。 「おいこら。見ろ」 「やだよー、僕今さっき帰ってきたところだよー?なんでまた仕事ー?横暴だー、パワハラだー、ドメスティックバイオレンスだー」 「仕事は早々に終わらせて観光してたやつに休暇はねぇ」 「バレてた!!!!」 どうやら封筒の中身は仕事の内容らしい。しぶしぶといった様子で圭太が封筒の中身を確認する。その手についたお菓子の油を拭いてから触って欲しいとやや潔癖のためやきもきしていると、内容を読み終えた圭太は笑顔で一色を見た。 「じゃあいこっか、悠ちゃん」 「………どこにですか?」 自分で淹れたコーヒーを飲みながら尋ねる。 圭太もつられたのかココア(コーヒーを出そうとしたらココアがいいとごねられた)をぐいっと飲み干すと立ち上がった。 「もちろん、お仕事だよ!」
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