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どう見ても似合わない。
一色が座っている茶色の革張りのシートは乗り心地も抜群だったが、この2シーターの赤いスポーツカーを運転しているのが圭太だということに違和感しかない。
ミッションのギアチェンジをする圭太は難なくこの気難しそうなスポーツカーを運転している。
一色は免許は持っているもののペーパードライバーだしそれ程車にも興味がないが、この車が若者がほいほい手が出せるような値段ではないことは分かる。
「大丈夫?酔ってない?」
「あ、平気です」
「良かった。なんか黙ってるから心配しちゃったよー。車高低いと酔っちゃう子もいるし」
「すみません、初めての仕事で緊張もしてます」
一色は圭太とともに依頼主のもとへ向かっている。
依頼主は25歳の独身女性、中野梓。3ヶ月ほど前からずっと誰かに見られている気がするとの事。警察にも相談してみたがストーカーされてる様子もなく実害もない為、気のせいだと相手にもしてもらえなかった。
「警察が動いてくれないからってどうしてうちに依頼があったんですかね」
「あははー、胡散臭いもんねぇ。その続き知りたい?」
「もちろん」
「じゃあ続きを教えてあげよう」
勿体ぶりながら圭太は口角を上げて楽しそうに話始めた。
先日その女性が自宅マンションにいるとインターホンが鳴った。光っているのは下のオートロックではなく玄関ドアのインターホン。誰か住民が帰ってきたのと同時に入ってきてしまったのか。それにしても非常識な。そう思ってモニターを見る。
しかしモニターには誰も写っていない。
住人の子どものピンポンダッシュ?不思議に思いながらも無視しようと踵を返したら、再びピンポーンと来客を告げる。しかし変わらずモニターには誰も写っていない。
気味が悪い。
ピンポーン、ピンポーン
続けざまに鳴るインターホン。
意を決して、玄関ドアに近づきそっとドアスコープを覗くと………
こちらを覗く目が!!!!!!
「どう?怖かったぁ?」
「オチを言いたすぎてニヤニヤしてるのが気になって怖さはあんまりでした」
「悠ちゃんってば辛辣!」
圭太はけらけら笑いながら大通りを左折して片側1車線の道へと入る。
「ホラーの定番っぽいお話ですね。確かに除霊して欲しくなる気持ちは分かります」
「そうそう!しかも社長はこの世界じゃあ一流だからねぇー」
「一流?凄い人なんですか、あれが?」
毎日ダラダラして昼間どころか朝からお酒を飲んでることもある、あの腑抜けた人と一流という言葉はなんてミスマッチなんだろう。
一色の疑いまくった声色に圭太はくすっと笑う。
「まぁあんなだからねぇ。でも凄い人なのは本当、悠ちゃんもいつか解るよ」
車はマンションの地下駐車場に入る。
どうやら目的地に着いたようだ。慣れた手つきで狭めの駐車スペースに停めた圭太は
「さ、気合い入れてこっか。今回のはすこーし複雑みたいだからね」
一色の不安を煽るような言葉をさらりと吐いた。
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