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「起きてください」
一色は桶川の胸に貼った紙をそっと剥がす。しばらくすると苦しそうに眉を寄せながら桶川がゆっくりと目を開いた。
「…………私は、何をして…?」
桶川は一色に視線を向ける。少し何かを考えるかのように黙りこむと、そのまま後ろを振り返っていろはちゃんのいる木の扉を叩いた。
「彩葉!!!彩葉!!」
「……お父さん?」
彩葉ちゃんが立ち上がって扉へと近づく。不安げに大きな瞳が揺れた。
「彩葉、すまない、ああ、私はなんてことを!!すぐ開けるから!彩葉!すまない!」
「お父さん?もう、いいの?いろは、ここに居なくてもいい?」
「当たり前だろう!!本当に、すまなかった!!待ってろ、すぐに鍵をっ」
扉を開けるべく鍵を取りに行こうとした桶川に廊下の向こうから歩いてきた橘がきらりと光るものを放り投げた。
「コレだろ、鍵」
「!!ああ、そうだ!」
一瞬驚いた桶川だったがすぐに鍵を差し込んで扉を開け、そのまま力のかぎり彩葉ちゃんを抱きしめた。
彩葉ちゃんの目から次々に涙が赤い頬を伝って落ちる。
「どこで見つけてきたんですか」
「教えて貰ったんだよ。彼女の母親に」
橘は抱き合ってお互いに泣いている2人を見ていた。否、橘にはきっとあそこにもう1人、亡くなった母親の姿も視えているんだろう。幽霊は視えない一色には分からない家族3人の姿。
父親は呪いの人形と化してしまった御神体の瘴気に当てられたことと、妻が亡くなってしまったことで正常な判断が出来なくなってしまっていたようだ。実の娘を監禁し、綺麗に着せ替えて完璧な市松人形を作ろうとしていたらしい。
「もう、大丈夫ですよね?」
「平気だろう。俺も子どもの頃軟禁されてたがこんなに立派な人間だ」
「……………えっ?」
なんだか爆弾発言をされた気がする。一色は隣にいる橘を見るが橘はいつも通りの顔をしていて突っ込むべきか悩んで、やめた。
願わくば、この親子がこの先健やかに、笑顔で過ごせますように。
涙でぐちゃぐちゃになりながらも抱き合っている2人を見て一色は心の底からそう願った。
後日
「な、なんですか、この大金!!」
「あ?……あーこれな。あのばぁさんからの依頼料だよ。成功報酬も含めてしめて300万。いやーこんな金払いいいなら500万くらい吹っかけときゃ良かったかもな」
「私の休日手当は1万でしたよね??」
「ん?そうだったか。まぁ細かいことは気にするな」
「………もう、絶対に休日出勤なんかしませんからね!!!!」
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