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例えば、春うらら
最高気温22度、雲ひとつない青空がどこまでも穏やかに広がり、そよ風が頬を優しく撫でる。
「いい天気で良かったねぇー!」
「本当ですね。まさに、絶好のお花見日和ですね」
4月。花見シーズンが到来。一色達も日本人の欲求に抗うことなくこの辺では有数の大きな公園に来ていた。広い敷地内にはソメイヨシノが約5500本も植わっていて、雄大かつ華やかな風景が広がっている。月曜日のお昼ということもあって場所取りをしていなくても桜のすぐ側という好立地にシートを広げることが出来た。
それでも小さい子どもを連れたおそらくママ友会や、やけに派手な髪色の人が多いのでおそらく美容師の人たち、オーラがキラキラしているのでおそらく大学生、など、多くの人で賑わっている。
「透くんはお友達と行ったりしないんですか?」
一色のすぐ横で飲み物を配っている透にそう聞く。
「友達…瀬崎くらいなんで」
「あ、そうなんですね。地雷でしたすみません」
「え!俺友達じゃないっしょー?恋人でしょー」
「瀬崎くん、それ完全に余計な一言ですよ」
「えっ!?」
「いいなぁー、みんなでお花見楽しいねぇー」
瀬崎が必死に透をフォローしているのを見ながら少し遅めの昼食としてサンドイッチを頬張る圭太がのほほんと呟く。
圭太が買ってきたボリューミーかつ映えると噂の店のサンドイッチ、一色が買ってきたデパ地下のお惣菜、瀬崎が買ってきた高級なデザート、透が買ってきた露天のたこ焼き(チョイスが可愛い)。各々花見に相応しい食べ物を持ち寄ろうと連絡をして買ってきたものが並ぶレジャーシートはとても華やかだ。
「それにひきかえ、貴方の持ってきたものは…」
「文句があるのか」
一色は左隣に座る橘を見て深いため息をついた。その目の前にドン!と置かれているのは6缶セットのビール、日本酒の一升瓶、そして黄金色に輝くウイスキー。
「いいえ、どうぞお好きに」
圭太は甘い飲み物しか飲まないのでお酒は飲まないし、瀬崎もそこまで好きというわけではないらしい。一色も酒よりお茶の方が好みなので、高い日本酒らしいが全く興味が湧かない。
「オレちょっと欲しい」
「なんだ、お前飲める口か」
紙コップを差し出した透に橘がにやりと笑いながら日本酒をなみなみ注いだ。
「瀬崎くん、良いんですか?」
「平気っすー。透、こう見えて酒強いんで。俺の介抱なんか必要ないくらい」
「ああー、それは彼氏としては辛いねぇー。まぁまぁサンドイッチでも食べなよぉ〜」
ガクリと肩を落とした瀬崎を圭太が笑いながら励ましていた。
一色は両隣の酒組におつまみになりそうな惣菜を手早く選り分けてからゆっくりと自分の食べ物へ箸をつけた。
顔を少し上げれば青い空に薄いピンクの花弁が広がる。なんとも贅沢な空間だった。
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