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「さっきの人?うちの課の課長よ。所謂窓際族のお飾りだけどね。なんだか事あるごとに話しかけてくるのよ、さっきもどうでもいいことを長々と。ホント気持ち悪い。それがどうしたの?」
近くの公園に場所を移し、早織をベンチに座らせて尋ねる。未だ後ろにはその課長がべったりと憑いている。ちなみに生き霊からヨダレなのかオーラなのか分からない黒い液体が早織の肩に落ちているがこれは伝えない方がいいと判断する。
「ちょっと言いにくいんですけど、ストーカー、課長さんなんです」
「は?どういう事?今もなんか視線を感じるんだけど、課長はまだ会社でしょ?」
課長は早織の肩口から身を乗り出した。一方的に見つめ合う。これはどんなに鈍感な人間でも視線を痛いほど感じそうだ。
「あなたに憑いているのは課長さんの生き霊です」
「生き霊…?そんなものが本当に存在するの?」
「残念ながら、本当です。証明できればいいのですが目に視えないものなので信じて頂くしか」
少し眉を下げ困り顔をつくる一色に早織はぶんぶんと首を横に振った。
「もちろん!あの人はともかく貴方のことは信頼してるわ」
早織は少し離れたところにあるブランコに座り煙草をふかしている橘を胡乱げな目で見ながら一色の手を取った。
「お願い、助けてくれる?」
上目遣いでじっと一色の顔を見つめる。彼女なりのあざといアピールに一色は気づかないフリをして微笑む。
「もちろん。ご依頼ですから。……頭の横辺りを触りますね」
手をゆっくりと離して生き霊の方へと伸ばす。あと少しで触れるところまで来ても生き霊は一色の存在には気付いていないようだ。ただひたすらに早織の顔だけを見つめている。
相当思い入れがあるのだろうか。大きな感情が雪崩れ込んでくることを想定して、1つ息をついた。
そのままゆっくりと生き霊の頭に触れる。
その瞬間、目がかちりと合った。
—————、キレイ
パンっ、と音がして生き霊はその場で霧散した。
「えっ…?」
「わっ!!軽くなった!!!なんだかスッキリした!もう見られてる感じもしない!えっ、すっごぉーい!ね、もう課長の生き霊いなくなったの?」
早織が立ち上がって嬉しそうにその場で飛び跳ねる。
「あ、ええ。もう大丈夫です。でも生き霊はまた憑くこともありますので後日早織さん専用の御守りを作ってお渡ししますね」
「こんな早く解決するなんて思わなかったから嬉しい!ありがとう」
「いえ、お役に立てて良かったです」
あまりの手応えのなさに一色はどこか釈然としない気持ちを抱きながら、嬉しそうに笑う早織にいつものように綺麗に微笑んだ。
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