例えば、綺麗なもの

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喉に魚の小骨が刺さったような、微かな違和感。事務所で食器を洗いながら一色はその違和感の正体について考えを巡らせた。 昨日の依頼自体は凄く上手くいった。何日か掛かるかもと覚悟していたがすんなりとストーカーも見つけることが出来たし、生き霊もすんなりと消すことが出来た。常であれば生き霊の元になっている感情を共有して限りなく小さくして、生き霊になってしまった原因を取り除く必要がある。生き霊になる原因は大概恋愛沙汰が多いので良く不倫やなんやの仲裁をするはめになる。そういう手間がかからなかったのは喜ばしいこと、だけど。 「なんかスッキリしない」 「何が」 唐突に背後から声をかけられてビクリ、と肩が揺れる。 思わず食器を落としそうになって慌てて受け止める。 「びっくりさせないでください」 「お前、警戒心が足りないな」 「何を警戒することがあるんですか」 「例えば、……こういう事とか」 目線を落としてコップについた泡を水で流している一色を包み込むように橘がシンクに両手をついた。頭頂部に揶揄うかのような橘の息がかかる。 「馬鹿ですか。あ、馬鹿でしたね。橘さんの馬鹿に付き合っている暇はありません」 一色はため息をついてするりとその腕の下をくぐって抜け出した。橘は向きを変えてシンクに腰を軽くかけていつものように煙草に火をつけた。 「で、何を考えてた?」 「別に何も。あ、明日早織さんに御守り渡してきます。依頼料は振込してくれるそうなので確認お願いますね」 「はいはい」 明日御守りを渡せば今回の依頼は完全に終わりだ。早織にとって恐怖だった半年がすぐに解決出来たのだから何も問題はない。 そう結論付けて一色は違和感を飲み込んだ。
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