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ピピピピピ、携帯のアラーム音が響く。
のそっと布団から手を出してベッドサイドの携帯を止める。今日は出勤日、確か透は来ない日だったからまずBarの掃除から始めなければ。そろそろ起きなければいけないことは分かっているのに身体が重くて起きれない。
連日の真夜中のインターホン攻撃による疲れが一色の身体から抜けきれないようで、布団は変わらず丸まったままだ。しばらくそのまま微睡んでいると
ブーブーブー、
携帯が震えて着信を告げる。
眉間に皺を寄せながらもディスプレイに表示された名前を見て一色は電話を耳に当てた。
「……もしもし」
『悠ちゃーーーん!!おっはよーう!』
一色のテンションとは裏腹にいつも通りのハイテンションな大声が聞こえて携帯を耳に当てたことを激しく後悔した。
『もー、まだ寝てたの?どんだけおねむさんなの!!』
「朝から絶好調ですね、圭太くん」
『えへへーー!!!だって今日ついにそっちに帰れるんだもん!!』
「あ、そうなんですか。良かったですね」
青森のイタコのところへ出張して早くも1ヶ月がたとうとしていた。大して興味はなかったがぼんやりといつ頃帰ってくるのだろうくらいには思っていた。
一色はのそのそとベッドから起き上がってカーテンを開ける。今日は朝からどんよりと重たい雲で覆われている。洗濯は乾燥までかけてしまおうと、少し遅くなってしまったこの後の計画を頭で考える。
『悠ちゃーん、聞いてるー?』
「ああ、すみません、聞いてませんでした」
『ひどっ!!!今日帰ったら僕のおかえりパーティーしてねって話でしょ!』
自分で計画をするところが圭太らしい。一色はうきうきしているであろう圭太を想像して少し微笑んだ。
「何時にこっちに着くんですか?」
『多分、夜の8時ごろかな』
「考えておきます。橘さんには圭太くんが許可取ってくださいね」
『だいじょーーぶ!だってこれ社長が、あっ!』
圭太が急に口を噤む。
「………なんですか?」
『何でもない、何でもない!!あ、じゃあそういうことで宜しくね!!!』
そう言ってプツっと通話が終了した。一色は切れた携帯の画面を見ながら首を傾げたが、圭太の行動が唐突なのはいつものことなので気にすることをやめた。
気持ちを入れ替えて仕事に行くために、いつものように身だしなみを整えた。寝不足からか白目が充血していることに気付いてタオルでしばらく冷やす。橘にはこんな情けない状況を知られたくない。ある程度充血が目立たなくなったことを確認してから、念のために走りやすいベージュのスニーカーを靴箱からチョイス。
インターホンのモニターを付けて、オートロックの先に誰もいないことを確認。その後ドアスコープも覗いて廊下にも誰もいないことを念入りに確認してから鍵を開けてドアノブを下げる。
その時カサリとビニールが擦れるような音がした。
(………なにかある?)
ドアノブにコンビニのビニール袋が引っかかっていた。
明らかに怪しいが、自分の部屋のノブにかけてある以上放置するわけにもいかないのでゆっくりとその袋を取って中身を見る。
「……っ!」
気持ち悪くて咄嗟に手を離した。
ビニール袋の中には、数日前にマンションに入る自分の姿を映した明らかに隠し撮りと分かる写真。その写真にべっとりと白くどろり、としたものが大量についていた。
鼻をつく独特の匂い。
男であれば嫌でも分かってしまうその精液に一色は口元を押さえて部屋の中へとUターンしてドアにもたれ掛かりながらずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
誰かが悪意を持っている。幽霊なんかとは比べ物にならないくらいの恐怖。完全に家を知られてしまっている。1階のオートロックを超えて、すぐドアの向こうまで来ている。
夜中のインターホンも、以前感じた視線も同一人物だろう。
そしてさっきのビニール袋。
———置かれてから、そう時間が経っていない。
「最悪だ」
一色はしばらくその体制から動けなかった。
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