例えば、こんな始まり

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「で?質問に答える気になりましたか?」 「お前、助けてやったのに感謝はねぇのか。可愛くねぇ餓鬼が」 一色に握りつぶされそうになったモノをズボンにしまいながら恨めしそうに男が睨む。 恐怖で少し萎えたようで窮屈ながらもそこに収まったのを確認して、一色は内心安堵する。なんせ男とこんな事になるのは初めてで、あんなに大きく黒々としたモノを見たのも初めてだった。その動揺を気取られたくないと思うくらいには一色のプライドは高い。 「可愛くなくて結構です。助けてもらった事は感謝してますけど」 「俺が見つけなかったらどっかのクソ野郎に強姦されてたぞお前。もっと感謝しろ、最大限感謝しろ」 「感謝する気が失せる人ですね」 「ああ?」 一色ははぁ、とため息をついた。 「話が進まないので。私は一色悠人。あの状態が異様だと気付いたという事は貴方も視えるんですよね」 男はソファに座って上着のポケットから煙草を取り出して火をつけた。 ついでとばかりに名刺を取り出してベッドの上に放り投げる。 「霊能者 橘尚道……」 名刺にある名前を読み上げる。 「お前はああいう事初めてじゃねぇんだろ」 その言葉にこくりと頷いた。 今日は仕事が終わって家路につく途中だった。人混みを歩いていると前から人ではないものがこちらに向かってきていた。楽しそうに腕を組んで歩くカップルのすぐ後ろで小柄な黒髪の男が何やらぶつぶつ言いながら歩く、否、足は地面にはついていなかった。纏う空気は明らかに異様。関わりたくないと距離を取って道を変えようとした時に、目が合った。ソレはニタァと嬉しそうに笑った。 次の瞬間、どくん、と心臓が跳ねて身体が無性に熱を持った。呼吸もやや浅くなる。 何より、下半身がいう事を聞かず、腰が震える。慌てて路地裏に逃げ込んでその場にへたり込んだ。 股間が熱い。何もしていないのにそこは主張しを始めて、ズボンに当たって痛みと少しの快感を拾う。 とにかく収まるまで何とか耐えよう。震える足を抱えて蹲った。しかし、30分経っても1時間経っても一向に収まる気配がない。家に帰りたいのに身体が言うことを聞かなかった。 その時、橘が現れたのだ。 「たまにあるんです。この世のものじゃないものと目が合ったりすると、身体に異変が起こる」 今日みたいに性欲に支配されたり、涙が止まらなかったり、無気力になったり、高熱に魘されることもある。 そのせいでまともな仕事に就くことが難しくて派遣の仕事で生計を立てていた。 「お前は生き霊の感情に引っ張られてんだよ。体質だな」 「生き霊……あれは幽霊とは違うものなんですか」 「お前今ここに何が視える?」 橘のすぐ左隣、部屋の隅を指差して問われる。じっと見つめるがただ四角い部屋の角があるだけだ。 「……特には、何も」 「やっぱりな。お前が視えてんのは生き霊だけだ」 一色の瞳が僅かに大きくなる。橘の言葉が信じられない。 「一応お聞きしますけど、そこに、今、何が?」 橘が指した部屋の隅を手のひらで示しながら聞く。答えを知りたいような、知りたくないような。 橘は口の端をあげてニヤリと笑った。 「この部屋に住み着いて早1年、45歳童貞のハゲ親父。ちなみに、お前の喘ぎに大興奮中」 …………さいっあく!!!の展開だった。
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