1.かなり斜め上から社長の告白(笑顔でお断り)

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   しかしフクシとて、ただスギウラを買収した訳ではない事は承知している。  というのも、ライバル会社の神原(カンバラ)という会社がフクシを悩ませている。神原は、斬新なアイディアと若者のファッション離れを危惧した上で、新しい商品を次々と打ち出して来て、並行輸入も成功させたりする、なかなかのやり手企業だ。同じ浅草界隈では知らない者はいないという位の、老舗メーカー。特許を取ったスニーカーを年齢問わず幅広く売り出し、成功させた中堅のフクシを何かとライバル視している。  そんな訳だから、神原はフクシを良く思っていないのだ。あからさまに、『フクシさんの商品を卸すなら、神原との取引は考えさせてくれ――』みたいな事を取引先に吹聴しているらしく、フクシの取引先に差別される事がある。それで実際、取引を断られる事もあるのだ。  それよりも、実はスギウラの持っているゴム工場の技術は相当高いもので、リストラの影響で何人かあちらの会社に流れてしまった。神原から、スギウラを丸ごと抱える形となる吸収合併をしたいという話が当初は持ち上がったのだが、父が断ったのだ。  フクシに世話になった身だから、それはできない、と。
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