【1】穏やかな始まり

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「ないですって。絶対にないです。天と地が引っくり返ってもありえないっすよ。カシラは惣太さんにぞっこんですから」  田中が身を乗り出してくる。 「昨日もそうでしたよ。カシラは惣太さんをスマホの待ち受けにしてるんですけど、暇があると惣太さんの画像を俺に見せてくるんすよ。『どうだ、可愛いだろう?』とか言いながら。『これが昨日の先生で、これが今週で一番可愛かった先生。先月のも、先々月のもあるぞ』とかって見せてくるんすけど、俺、その違いが分かんないんすよね。どれも同じに見えて。けど、カシラの中では明確な違いがあるらしくて、ベストショットを俺にチラ見せしてくるんです。けど、その画像をグループラインやインスタには絶対に上げないんすよね。なんか惣太さんを独占したいみたいで」 「……そ、そうなんだ」 「ですよ。この前なんか惣太さんの笑顔の写真をデジタルでは飽き足らずタペストリーにして部屋に飾るとか言ってましたよ。ベッドの上の天井に張ればいつも目が合うとかなんとか。そのうち、銅像とかも作るんじゃないですかね。はは」  笑い事じゃない。絶対にやめてほしい。銅像どころかタペストリーも全力で阻止する。 「とにかく、デロデロのメロメロなんで、嫌われるとか気にしなくていいっすよ。それより、あのヤバいくらいの独占欲の方を気にした方がいいっす。カシラは何かあるとすぐにジェラってくるんで」  田中は覚えてますよねと続けた。 「二人で行った『極甘天国』のツーショット写真。あれなんか俺の顔の所だけ上手にくり抜かれて、顔出しパネルみたいになったんすよ。観光地で写真を撮る、あの板みたいなやつです」 「知らなかった」  惣太は思わず吹き出した。仕事が細かい。
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