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暫くパソコンに向かって、目と首の後ろが疲れてきた。時計を見ると四時間近くパソコンとにらめっこをしていた。もうお昼だ。お腹減ったな。同じ姿勢で固まっていたので、体もガチガチ。立ち上がったら全身の骨がギシギシいった。
熱いお風呂に入ろう。実家はお風呂入り放題な浴室設備だから嬉しい。
とにかく早くこの書き下ろしを仕上げたかった。休筆するには多分早目に仕上げてしまった方がいいだろう。その方が話を切り出しやすい。急な話なので出版社側も出版の仕方の企画や何やらあるだろうし。
休筆計画のために編集さんたちには前々から仕事を減らしていって私が本気だと根回ししたし、一年二年休筆しても平気なくらい蓄えもある。ソウルでヨギさんに数年間借りしても良いくらい。
その暮らしを想像して幸せな気持ちになった。あのいい匂いと暮らせる。色々借りるまであるだろうけど、きっとなんとかなるよ。こんなにタイミング良く話を聞いたもの。
お風呂沸かそう。
台所にいくと母が昼御飯を作っていた。大根おろしとなめこの煮浸し、卵焼き、焼鮭、具だくさんの味噌汁、美味しそうな味付けおこわのいい香りが、炊飯器から立ち上っている。お昼は和食かあ。
ああいいなあ、自分で作らなくても美味しいご飯が食べられるし、お風呂に入りたい放題。居間に編集さんが待ち構えていないしのんびり出来る。
お父さんお母さんありがとう。
母が振り向いて私に声をかけた。
「珍しく家に来て仕事してるから驚いたわよ。さっきヒソカの部屋覗いたら、あんた気がつきもしないもの。お昼、有るものを使って適当に作ったわよ?食べる?」
「うーん、仕事したら体固まっちゃった。お風呂入ってから食べる。美味しそう」
「婆臭いわねえ、二十代の娘がそんなでどうするの」
「二十代って言っても、アラサーだもん、婆臭くもなるよう」
「さっさと旦那さん見つけて、孫産んで、この家を賑やかにしてちょうだい」
「ハイハイ、あ、お母さん、私仕事暫く休もうかと思ってる。九年間頑張ったし、いろいろあったから疲れちゃった」
母は振り向いて真面目な顔をして頷いた。
「そうねえ、本に顔写真が載ってからもみくちゃだったものね、家まで電話で問い合わせや変な電話かかってきたよ。本の売り上げ増やすためだって出版社の人がいっていたけど、ありがた迷惑ね」
「え、お母さん太陽出版社の人と話したの?誰と?」
「なんとかさんとか言うチャラチャラした話し方の押しの強い人の話を聞かない男の人」
ああ、あの男と話したのか。
「その男、家にも来るかも。しつこくされて困ってるから何言われても家に上げないでね、凄い会いたくないんだ、そいつ」
「私もいい感じしなかった。解った、家に入れない」
「宜しくお願いします」
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