1 二人の生活

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1 二人の生活

 俺はポラード。街の使われなくなった孤児院(こじいん)併設(へいせつ)した教会に(うつ)り住み、しがない神父をしている。  前の村で殉教(じゅんきょう)した(はず)の俺が何故(なぜ)(いま)だ神父をしているのかと言うと、教団に死んだことが伝わらなかったせいだ。  俺のように魔物退治専門の戦闘集団に所属する者は、信仰(しんこう)(しん)のない(やから)が多いため、教団関係者の見張(みは)りが付けられている。  それが誰なのかは分からないが、俺がヴァンパイアの高杜(たかもり) (なぎ)()さんに首を()まれて死んだところを見逃したらしく、すぐに魔物となって(よみがえ)ったせいで見張(みは)りも気が付かなかったらしい。  仕事をサボるなんて、神の使徒(しと)として失格(しっかく)じゃないのか? と教団に問いかけたくなるが、俺は高杜さんとの(たたか)いに負け、下僕(げぼく)にされてしまった。 「負けたのよね?」と言われてしまうと反論できない。  おかげで俺は、教団と高杜さんの両方からこき使われる羽目(はめ)になった。 「ロクデナシしたい」  洗濯物を()しながら、曇天(どんてん)を見上げて(つぶや)く。  教団にヴァンパイアになったと勘付(かんづ)かれるわけにはいかない。バレれば、退治(たいじ)対象だ。 「高杜さんに()みつけば、立場は同等だよな、多分」  できれば下剋上(げこくじょう)がベストだろう。  どちらにしろ、その機会を作る為には高杜さんの(そば)にいるしかない。  次の任務地(にんむち)(うつ)るために、引っ越しが必要だったので高杜さんに相談したら、あっさりと、「ついていくわ」と言ったが……。  神父は恋愛も結婚も禁止だ。  そんな俺が、シスターでもない若い女性を連れて歩くわけにはいかないし、見張りもいるので内緒にもできない。  考えた(すえ)、俺は先日の報告書と、退治したヴァンパイア(高杜さん)遺骸(いがい)に似せた(はい)を送るついでに、教団に彼女と(とも)(うつ)り住む許可願いをしたためて書簡(しょかん)を送った。  『熱心に教会に通っていた天涯(てんがい)孤独(こどく)信徒(しんと)の女性が病に倒れ、看病(かんびょう)が必要な状態となりました。  神の使徒(しと)たる私には、病魔(びょうま)に苦しむ女性を一人にしてしまうことなど、とても出来ない事です。  次の任地である教会には、使われていない孤児院(こじいん)併設(へいせつ)されているとのこと。  私が使う事の無い部屋が多数あると思いますので、彼女には空き部屋で養生(ようじょう)をして頂き、世話は現地で誰か女性を(やと)い、頼む予定です』  すると、案外簡単に許可が()りた。  気持ち悪い程にすんなり許可されたので、どこか()に落ちない。  病に苦しむ信徒(しんと)の女性を見捨てることは、教団にも出来なかったのだろうか?  もしかしたら立派な神父らしい、俺の奉仕(ほうし)精神(あふ)れる思いを切々(せつせつ)(つづ)(うった)えた手紙に共感を覚えたのかもしれない。  どちらにしろ、『ちょろいな教団』と、俺は笑みを浮かべずにはいられなかった。  そして高杜さんのせいで立派な神父を演じ続け、疲労困憊(こんぱい)の長い旅路(たびじ)()てこの教会へやってきたのだが、高杜さんは着いた直後、()()か顔色を変えた。  理由は分からないが……。  様々(さまざま)な事が一気に押し寄せてきたので、(すべ)てを受け入れる事が出来たわけではないが、思ったよりも平和な生活が(いとな)めていることに安堵(あんど)している。
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