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「帆多留さん、大丈夫っすか」
「まあ、だいぶ…」
「ごめんなさい。中、帆多留さんが寝てしまった間に掻き出して置いたんですけど…」
「おまっ…俺が言ったことだから、夕希は気にしなくて良いっつーの」
帆多留にとって羞恥極まりない事実をさらりと伝えられ、謝りたいのに怒っているような口調で返してしまう。
「あ、電話。フロントからかな」
体の重い帆多留に反して、いつもと変わらず動く夕希に尊敬すら感じる。
「(わけーな…)」
時刻は午後4時。どこに居るかと言えば未だ旅館の室内にいた。
昨夜何時まで抱き合っていたのかも分からないまま、起きたのは昼12時だった。チェックアウト時刻は11時。スマホのデジタル時計を見て慌てて飛び起きようとしたところで腰と腹に激痛が走りそのまま布団から体を起こせなかった。
隣で同じように眠っていた夕希に手を伸ばして叩き起こすと、眠気のせいかほぼ回っていない呂律で、
「朝、旅館の人に話付けて、このままもう一泊して良いそうですよ」
と説明される。戸惑いながらもそれを上回る痛みが走っているせいでやはり体を動かせそうになかった。
帆多留の唸り声で覚醒した夕希に腰をさすってもらったり痛み止めを仲居から貰ってきてもらったりと介抱されるうちにようやく上半身を起こせるようになり今に至る。
フロントから掛かってきた電話に対応していた夕希が、布団に座ったままの帆多留に微笑みかける。
「夕飯も昨日ほど豪華では無いけど出してくれるそうです。お二人なら是非って」
「有名人の肩書き利用し過ぎだな俺ら。多めにチップ置いとかねーと」
ゆっくりと布団から出て、シャワーだけでも浴びようと立ち上がりつつ言うと可笑しげに笑い出す夕希に眉を顰める。
「帆多留さんって俺様っぽいのにそういうとこ謙虚ですよね」
「うるせー」
ぎしぎし痛む腰を抑えつつ、連れ立ってくれた夕希と共にやはりどうせならと湯船にまで浸かり終えた頃には体の痛みはかなり良くなっていた。
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