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episode1
「ちょっと待ってSEASONSじゃん!」
「やば!かっこいいー!」
「やっぱり帆多留くんって王子様だよね」
「少女漫画から出てきたみたい」
(はいはい、そのベタな例え、耳にタコができるほど聞いたから。みんなして語彙力無さ過ぎかよ)
「あんなにイケメンなのに性格天然っぽくて可愛いよね」
(すみませんビジネス天然ですけど何か)
「お祭りに行ったら真っ先にわたあめ買うってこの前インタビューで言ってた」
「可愛い〜」
(まじで25歳の男が祭りでわたあめ買ってうふふあははしてるって信じてんの?だいたい祭りなんて、正体バレたらお前らみたいな奴が騒ぐおかげでここ何年も行けてないっつーの)
スクランブル交差点を渡った先に立つ馬鹿でかいビルの大型スクリーンの中では4人組の男性アイドルグループが煌びやかな衣装を身にまとって踊っている。
市瀬帆多留の顔がアップになった瞬間、交差点のど真ん中できゃー!という甲高い歓声が上がった。
運悪くその横を通ったのは、スクリーンに映った張本人である帆多留だ。
ブロンドの髪が隠れるように黒のニットキャップを深々と被り、マスクをしてうつむき加減で人混みを歩く。
(本当のオウジサマなんて三次元に居るわけないだろ、アホか)
心の中で悪態をつく。
世間から「王子様」と呼ばれる帆多留のこのひねくれた本性は、メンバーとマネージャーしか知らない。
アイドルグループSEASONSとしてデビューして2年が経つ。この2年で築いたグループ内人気ナンバーワンのポジションと「王子様」というキャラ。
カメラの前では決して微笑みを絶やさず、上品な所作と丁寧な口調を忘れたことは無い。
王子様のイメージを崩さないように考えた緩いパーマのブロンドのヘアスタイルもすっかり自分の体の一部として溶け込んでいた。
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