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「そういえば今日入学式で、女の子たちが市瀬さんの話してて、なんか、自分のお隣さんが有名人なんだなって思ったら、不思議な感じでした」
昨日と変わらず屈託のない笑顔でそう話すナカノに、「そっか」とだけ返す。また、沈黙が流れ始めた。
自分のコミュ障っぷりに嫌気がさす。何か、気の利いた質問でも出来たら……。
「入学早々、こんな時間まで何してたんだよ」
いやいやいやいや。
こんな質問、娘を心配する父親か束縛激しめの彼女しかしないだろ。
けれどナカノは困った顔を一つもせず答える。
「あーそれは、本読んでて気付いたらこんな時間で」
「本?」
「俺、本読むの好きで、読み始めると没頭しちゃうんすよね。大学の図書館初めて入って、広くてどんな本でも置いてあって感動して、何冊か借りて近くのカフェで読みふけってました」
ナカノが少し照れくさそうに言ったところでちょうどエレベーターが52階に到着する。
自分の部屋を素通りして隣の部屋に入ることが不思議な感覚だった。
鍵を開けたナカノが、扉をおさえて先にどうぞとジェスチャーをする。
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