episode2

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なんだ? 俺まずいこと言ったか? ちょっとは謙遜しろってか? 「素で笑ってるとこ初めて見た」    ナカノはそう言うと、驚いた表情から、ふ、と穏やかな笑顔を見せる。  ……これ女だったら確実に惚れてるだろ。無自覚タラシってやつか。 「……いや、あのさ、そういう、可愛いとかじゃなくて。俺、実際、口悪いじゃん。気になんねーの?」  冷めてくれない頬の熱を誤魔化すように再び、どもりながらも問いかける。 「それは、人間みんな、ずーっと同じ顔してるわけないじゃないっすか」  ああ、そうか。  こいつはやっぱり、そういうやつだ。  人の短所を気にせず、長所ばかり見てる。 「お前はずっと、誰に対してもどこに言ってもそのまんま、変わらなさそうだけど」 「はは、よく言われちゃいますよ。もっとTPO考えろって」 「いや……良いと思う、すげー羨ましい。俺は、キャラを作ってしか、輝けないから」  ありのままでも、きらきらしているナカノが、羨ましい。 「でもその、キャラってやつは、市瀬さんの努力があってこそですよね。誰でも出来る事じゃないし、少なくとも俺は無理っす。それにどっちの市瀬さんも、間違いなく市瀬さんですよ」 外は真っ暗なのに、夕陽が見えた気がした。あたたかく穏やかに、心の全てを包み込んで癒してくれる。昼間の太陽のようにひどく眩しくなくて、優しい。夕暮れの景色のような、ナカノの言葉と、笑顔。  ――惚れちゃったってわけ?  またもや伊月の言葉が脳内を木霊する。そうか。俺。ナカノが――。  そのとき、スマホの着信音が部屋に鳴り響いた。ナカノの手の中にあるスマホ画面が光っていた。覗くつもりはなかったけれど、ちょうど画面に表示された名前が見えてしまう。  立花結衣。どう見ても女の名前だ。 「彼女?」  違いますよー、と。また、笑って返してくれると思った。 「はい、彼女です。俺が地元離れて上京したから遠距離になっちゃったんすよね」  ナカノは、すみません、と照れくさそうに笑いながら、スマホに耳をくっ付けてソファーから立ち上がり、部屋を移動する。  
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