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待っている間、なんとなくソファー前のローテーブルに目をやると、書類の山の中に学生証があった。
昨日は目につかなかったな。
手に取って名前の欄を見てみる。
仲野夕希。ふりがなは、ナカノユウキ。
「ゆうきっていうのか」
下の名前をやっと知った。夕陽の夕に、希望の希。ナカノにぴったりな名前だと思った。
そのひとりごとはキッチンにまで聞こえてないと思っていたのに、しっかり夕希の耳に届いたようで。夕希は皿をローテーブルに運びながら、「はい、夕希です」と笑った。
「良い名前だな」
お世辞ではなくそう言う。
「嬉しいっす」
照れたように笑う夕希は、続けて言う。
「帆多留さんこそ、綺麗な名前ですよね」
自然と自分も下の名前を呼ばれて、胸が高鳴ってしまう。
テレビをつけ、2人で隣り合って朝食を食べた。
空腹ではないと思っていたのに、ひとくち食べたら不思議と腹が減ってきて、なんてことないバターを塗ったトーストとベーコンエッグがとても美味しく感じた。
「美味い」
自然とそう口に出ていた。
朝飯なんていつも1人で食べているし、むしろ抜いてしまう日も少なくない。
こうして誰かに作ってもらった飯を、一緒に食べられるなんて、いつぶりだろうか。
夕希は、良かった、と返してから更に言葉を続ける。
「またいつでも、メシ食いに来て下さい」
社交辞令だろうか。と、一度考えて、こいつはお世辞や社交辞令を言えるようなタイプでは無いと思い直す。
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