episode2

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悔しいことに、全く脈の無い片想いをしてしまったけれど。  時々、一緒に飯を食べるくらいなら許されるだろうか。帆多留は「ああ」と、頷いた。    「よし、じゃあ俺、荷物片付けちゃいますね」  朝食を食べ終えると、夕希がそう言って立ち上がる。  理不尽に怒ったし勝手に煙草吸ってしまったしわがままを言ったし、せめてもの罪滅ぼしになればと、帆多留が言う。 「俺も、手伝う」 夕希が空になった皿をまとめながら、え、と声を出した。 「俺のこと嫌いなのに?」 意地悪な笑みを浮かべている。 「それはっ、冗談だって」 「はは。分かってますよ。本当に嫌いになられたら、さすがに空気で分かりますよ」  そう続ける夕希の目が、どことなく寂しそうなのを帆多留は見逃さなかった。  嫌いになられたらって、そんな経験があるのだろうか。こんな、人類みんなに好かれそうなやつが。  いや、でも、みんなに好かれているというだけでその人を嫌う人も、悲しいことに居るのだ。    自分も、所謂アンチという存在に悩まされることがある。  いくら、王子様の仮面をした自分に向けての誹謗中傷であっても、悲しくて悔しくて心にぐさりと嫌に突き刺さる。 「市瀬帆多留無理だわ」。そんな心無い一言だけで心がえぐられてしまう威力がある。応援のメッセージを何百、何千と読んでも、なかなか癒えないくらいの威力。  夕希にも、もしそんな経験があるとしたら俺はその相手を、許せないと思った。 「……夕希は良い奴だから、嫌いになるなんて、ありえねえから」  嫌いだなんて酷いことを言っておいて、今更なんだと思われるかもしれないけれど。 「ありがとうございます」  心底嬉しそうに笑う夕希に、なんだかホッとした。  スマホの時計を見ると時刻は7時。管理人に連絡可能な時間はたしか9時以降だったっけ。  憂鬱だけれど、鍵をなくした連絡をしなくては。    
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