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「なんか、荷物少ねーな」
その大きなダンボールだけを残して、夕希がこれで全部ですと言って、作業は終わった。けれど明らかに生活必需品が少なく見える。
「部屋が広いからそう見えるんじゃないっすかね?」
「それもあんのかもしれねーけど……つーかまずテレビ床置きだし。これからテレビ台買う予定とかあんの?」
テレビ台もなく床に雑多に置かれたテレビが、なんだか悲しそうだ。
「いや……まあ、どうせ――」
夕希が何かを言いかけたところで、スマホの着信音が聞こえてきた。鳴っているのは帆多留のスマホだった。
画面に表示された名前は「山城咲久」。
なんの用事だろうか。受話器のマークをタップして電話に出る。
「おはよう帆多留」
あ、やべ。これ怒ってる時の声だ。
思わず背筋がぴんと伸びる。長い付き合いなので、受話器越しても直ぐに、メンバーの機嫌が分かってしまう。
「鍵。俺のジャケットのポケットに間違えて入れたでしょ? 入ってたよ」
いつもより低い声でそういう咲久。
安堵と、ふがいなさと、やるせなさが、入り交じった。
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