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「はああ……良かった」
「だから、ちゃんとバッグに入れときなって――」
「はいはい、悪かったって」
咲久の長い説教が始まる前に、謝罪をして制止する。
「もー……本当に分かってる?」
「分かってる。今回はまじで反省してる」
「本当に気を付けてね。昨日はどうしたの?」
「……昨日から隣の部屋に、上がらせてもらってる」
「あー噂のナカノさんね。襲われちゃったりしてない?」
怒っていたハズの咲久が、夕希の存在を匂わせると急に茶化すような楽しげな口調に変わる。小学生が友達の告白の野次馬をしているかのような雰囲気に、ため息をつく。
「んなのねーってば」
相手は彼女いるし。残念ながら男をそういう目で見てくれるワケがないのだ。
……まあ、ベッドに運ばれて同じベッドで寝たけど。
「じゃあ鍵は、今日の仕事の時に渡せば平気?」
正直、一度部屋に帰って着替えをしたかったけれど、それだけのために咲久にわざわざ部屋に出向いてもらうのも気が引ける。
仕事の道具は幸い昨日も仕事場に持って行ったトートバッグに入っているし。
夕希が良いなら、仕事の時間までこのままここに居させてもらおうか。服は、適当に借りよう。
「ちょいまち」
咲久にそう告げて一旦スマホから耳を離す。
「夕希、悪いけど夕方まで――」
ここに居てもいいか? と、確認しようとした時だった。部屋のインターホンが鳴り響く。
「あ、配達かな。日用品とか色々ネットで頼んでるんすよ」
夕希はそう言うと、玄関に行く前に「すみません、どうしました?」と首を傾げて帆多留に聞き返す。
「夕方までここに居ても――」
がちゃん。明らかに玄関のドアが開く音がして、ぱたぱたと軽快な足音が近付いてくる。
「夕希ー、やっほ。来ちゃった」
突然リビングにあらわれたのは、一人の女だった。
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