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「え?」
彼女と帆多留の声が重なる。
「隣の部屋に住んでる田中さんっていうんだ。昨日初めて会って仲良くなってさ、昨日から泊まりがけで引越しの手伝いしてもらっちゃってて」
夕希の自然なフォローに、胸がきゅうと疼く。
彼女に嘘をついてまで、自分を守ってくれたことが、嬉しくて、切ない。
「なんだー、そうだよね。本物のわけないか」
彼女は夕希のとっさの嘘を信じたようで、笑いながら、でも本当そっくりー、と続けた。
「そうなんです。最近よく帆多留に似てるって言われるから、髪型とか意識しちゃって」
帆多留もつとめて自然に笑って言う。
「あははっ、そのルックスだとめっちゃモテそう」
彼女はすっかり信じ込んでいる様子だ。
「全然ですよー」
「街で間違われて声掛けられません?」
「さすがにそれはないかなー」
もういいだろ。
初対面なのにすげー喋るじゃん。
随分と話しかけてくる彼女に、心の中で舌打ちをする。
なんというか、夕希も彼女も、社交的だ。
こんなふうに出会ってすぐに打ち解けたのだろうか。
泣きそうになるのを堪えて、
「じゃあ、俺、帰ります」
と、夕希に視線を送る。
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