episode3

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「え、でも……」 鍵の心配をしてくれているのだろう。 彼女にバレないよう、ジェスチャーで「エントランスに友達が来てる」とあらわす。    とにかく一刻も早くこの場を立ち去りたかった。 「そっか。じゃあ、またいつでも来てくださいね」  無事夕希に伝わったらしい。 彼女も一緒になって、 「夕希のこと、よろしくお願いします」  と、笑う。  お前の物じゃねえだろ。と、突っ込みたくなったけれど、彼女なのだから、当然の言い回しだ。 「そんな、母さんみたいなこと言うなって」  親しげに突っ込みを入れる夕希。どんどん、どんどん虚しくなっていく。 「スウェット貸してくれて、ありがとう。着替えだけさせて下さい」    なんとか笑顔を作ってそう言い、脱衣所で昨日着ていた服に着替える。  あー、どうしようか。昨日一日着ていた服をまた着るのはさすがに気持ち悪い。適当に服買いに行って着替えるか。  B放送局なら、直前でも借りられるダンスレッスン室あったよな。早めにそこに行ってもいいし……。  なるべく、夕希のことを考えないようにと、今日のこれからのことを考える。けれど、嫌でも彼女と夕希の会話が耳に入った。 「昨日連絡返すのだいぶ遅かったけど、また本に没頭してたんでしょ」 「ごめんごめん。ちょうど図書館で読みたかった本見つけてさ」 「私と本どっちが大事なの?」 「本かな」 「あはは、さいてー」 連絡が遅い理由を、聞かなくても分かるほど、一緒に過ごした時間が長いのだろう。 軽口をたたける2人の距離感に、仲の良さが伝わってくる。 ……もう、今日で会うのはやめよう。 時々、飯を食うくらいなら、と思ったけれど、夕希に会ってもきっと、彼女の姿が頭から離れなくて虚しくなるだけだ。 着替えを終えると、リビングに置いていたバッグを肩に掛け、「お邪魔しました」とだけ声を掛け、そそくさと夕希の部屋を後にした。
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