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酒井にならどんな姿を見せても平気だと、煙草を咥えたまま玄関モニターを確認することも無くドアを開けた。
「あっ、どうも、初めまして。急にすみません」
立っていたのは、見知らぬ青年だった。
3秒間。帆多留の時が、止まる。
――いつどこでパパラッチが見ているか分からないからね。
酒井の言葉が脳を過ぎって、無言で思いっ切りドアを閉める。
パパラッチ? まさか? ここまで? 追い掛けて来た?
心臓の音がドラムを鳴らしているように全身に響く。
見られた。やばい。喫煙姿を見られた。
帆多留はローテーブルに投げていたスマホを手に取って、着信履歴の1番上にある酒井の名前をタップする。
2コール目で電話は繋がった。
「酒井さん。やばい。おれ、パパラッチに煙草吸ってるとこ見られたかも。どうしよう」
迷子になった子供のように、帆多留は気が動転していた。こんなに焦ったのは、いつぶりだろう。記憶にある限り、ここまで動揺した経験は無い。
「落ち着いて帆多留くん。今どこにいるの?」
冷静に返してくれる酒井の包容力ある低い声が、帆多留の気持ちをいささか落ち着かせてくれた。
「マンション」
「え? マンション? の、部屋?」
帆多留をなだめていた酒井が、途端に不思議そうな声を出す。
「マンションにパパラッチが来るはず無いよ。訪問者は必ずロビーで身元を確認されてから帆多留くんの部屋に連絡が来て、知り合いかどうか完全に確認できたところでやっとエントランスを通れるから」
知っているはずのシステムを酒井に詳細に説明され、そうだったと思い起こす。
こんなに慌てている自分が恥ずかしくなって、頬に熱が集まっていく。
「でも、じゃあ、誰――」
帆多留が言いかけたところで、もう一度インターフォンが鳴った。
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