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「仕事以外でメンバーだけで過ごす時間も最近無かったし、祝いついでにたまにはみんなで酒飲んで息抜きしよーぜ」
そう言われ、髪をぐしゃ、と撫でられる。「セット崩れんだろ」と睨むけれど、心の中では、メンバー思いの伊月に、ありがとう、を言う。
傷心中に誰かが気にかけてくれるというのは、それだけで救われるものだ。
番組の出演を終えて、すぐにマンションに帰った。
夕方6時。リビングの、閉め切ったカーテンの隙間からオレンジの光が漏れている。
ベランダに出ると、ちょうど日が沈むところだった。
ここのところ、夜に帰宅することが多かったので久しぶりに夕陽を見れた気がする。
煙草を1本吸う間、夕暮れの景色を眺める。
夕陽の残像が、黒い影になって目の前をちかちか動く。
ホタルという名前は、周りの人を優しく照らしてあげられるように、という願いを込めて付けられたらしい。
プライベートの自分は、そんな、優しい人間では無いけれど。
たくさんの人に夢と希望の光を与えられる「アイドル」という仕事につけたおかげで、少しは自分の名前に見合った生き方をしていると思っている。
でも、こんなに大きくて綺麗な夕陽には、ホタルの光は、到底敵わない。
夕陽を見るたびに、自分のちっぽけさに気付く。
ため息と一緒に最後の煙を吐いたところで、インターフォンが鳴った。
酒井だろうか。
いや、もしかして――。
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