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1週間ぶりに入った夕希の部屋は、ひどく懐かしく感じた。
相変わらず物が少なくて、部屋が広々として見える。
「適当に座ってて下さい」
そう言いながら、てきぱきとキッチンに食材や食器を並べていく夕希。
そういえばこいつで抜いたんだよな……。
ふと思い出して、罪悪感がつのる。さすがに男にオカズにされたなんて知ったら、ドン引きされるだろうな。
「どうしました?」
ソファーに腰掛けてキッチンに目を向けると、カウンター越しに目が合って首を傾げられる。慌てて真っ暗なテレビ画面に視線を送り、「べつに」と返す。
誤魔化すようにリモコンに手を伸ばして、電源をつけた。
ニュース番組を見ながら待つこと15分程。
オムライスの乗った皿が2枚、目の前のローテーブルに運ばれる。
見るからにふわふわとしていて、食欲をそそられた。
「何描いてるか当ててくださいね」
隣に座った夕希は、そう言いながら細口のケチャップでオムライスに何やら絵を描いていく。
「はい、完成です」
自信満々の様子で夕希が言うけれど、ぱっと見ただけでは何が描かれているかよく分からなかった。
「……カマキリ?」
目をこらしてそう答えると、夕希は「全然違いますよー!」と眉を潜める。
「犬っすよ犬!」
「いやどこがだよ」
どう見ても犬には見えず、笑ってしまう。
「ここが耳でこっちが尻尾で……」
パーツを解説されるけれど、画伯な夕希に笑いが止まらない。
「お前絵下手すぎ」
笑い過ぎて溢れた涙を指で拭うと、穏やかに笑う夕希と目が合う。
あー苦手だ、その笑い方。心を揺り動かされて、胸奥が締め付けられるような、好きだと実感してしまう、笑顔。
「笑ってくれて良かった。なんか今日帆多留さん元気無さそうだったから」
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