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「っつ……!」
瞬間、唇と身体が解放される。
痛そうに口元を抑えて目を伏せている夕希が視界に入る。震える足で、何とかソファーから立ち上がった。
「……お前、何……何してんだよ! 彼女、……彼女が悲しむだろ!」
疑問と動揺と興奮と、怒りに似た何かと、焦りと、様々な感情が入り交じって、荒くなった呼吸と共に声を上げる。
「……彼女とは、別れたんです……」
「え……」
嘘だろ、あんなに、仲良さそうだったのに。
「でも……ごめんなさい。だからって、こんなことしていい理由にならないのに」
自分でも驚いているような、震えの交じった声で夕希が静かに言葉を紡ぐ。
「……綺麗だなって、帆多留さんの横顔が。そう思ったらつい」
今にも泣き出しそうになる夕希。まだ動悸の治まらない心臓。
「なん、だよ、それ……」
どう言葉を掛けていいか分からずに、こちらも泣きそうになりながらそれだけ言って、静かに部屋を出る。
追い掛けて来ない夕希に、ほっとしたような、悲しいような、複雑な気分のまま、自分の部屋に帰った。
耐え切れずに、玄関でしゃがみ込む。
口の中には、苦いコーヒーの味と、キスの、熱い感触が残っている。
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