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「帆多留さんっ、開けてくれて良かった……この前のこと謝りたくて、俺……」
扉の先にいた夕希が、揺れて見える。あー飲み過ぎたな、なんて、ようやく反省しながら、切羽詰まっている様子の夕希の胸板に、額を預ける。
「ゆーき……何であんな、急に、キスなんかしたんだよお……」
「えっ、帆多留さん? 酔ってます?」
動揺しているような声が降ってきて、けれどゆっくり、背中を撫でられる。気持ち良くて、そのまま目を瞑ると、鼻から抜けるような笑い声が上から降ってくる。
夕希の、笑い声だ。
その声が妙に落ち着いて、夢の中へ意識が引きずられそうになる。
「面白いことになってんなー」
微睡みに近い意識のなか、背後から伊月の笑い声と、シャッター音が聞こえる。
「うわ……SEASONS揃ってる……めっちゃ豪華っすね? 俺ラッキー過ぎてファンに刺されそう」
夕希が驚いたようにそう言う。いつまでも背中を撫で続けてくれる手のひらが、愛おしくて離れて欲しくなくて、ぎゅうとしがみつくように抱き着いた。
「今なら主に帆多留ファンに刺されちゃうね」
そう言う咲久が続けて、「それにしてもなかなかイケメンだね夕希くん」と、笑うのが聞こえる。
「いやいや……本物のイケメンに言われても」
夕希が話す度に声が振動して、揺りかごに揺られているような懐かしい安心感を覚える。
うとうとと心地良い感覚が、そこで途絶えた。
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