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「帆多留さん……俺、……だから、……もう」
気付いたら、また眠っていたらしい。夢と現実の狭間で、途切れ途切れ夕希の声が聞こえる。
遠くから聞こえるその声。しかし、気配はすぐそばにある。
温かい手のひらが、自分の手を包む感覚がして、それから額に唇が触れたような、気がした。
薄く目を開けると、ベッド際に腰掛けている夕希と目が合う。
「すみません、起こしましたね」
手を握られたのも、額に口付けされたのも、夢だったのか……。少し離れたところに座って微笑む夕希に、寂しさを感じてしまう。
キッチンからは、味噌汁のいい香りが漂ってくる。
「ありがとな……その、なんか、色々してもらって」
目を合わせずにそう言う。
「いえ。全然っすよ、これくらい」
夕希が笑うのが分かって、なんだか安心した。
「じゃあ俺、今日一限から講義あるんでそろそろ行きますね」
ベッドから腰が上がって、余計に寂しさが募る。もう少し、ここに居て欲しい、なんて思うけれど、到底そんなことを言えるはずもなく。
「ああ……おつかれ」
続けて、またな、と言おうとした時だった。
「ごめんなさい、帆多留さん」
夕希が突然、頭を下げる。
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