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相変わらずキッチンから、味噌汁の匂いが漂ってくるけれど、全く食欲がわかない。
このまま、もう一度寝ようか……。
何をするのも億劫で、ベッドに横になって頭まで布団を被る。
しかし心のざわざわが取り払えず、眠ることもできない。
スマホが鳴った。
表示されたのは酒井の名前だった。
「もしもし……」
相変わらず、自分の声が枯れている。
「帆多留くん? テレビ見てる? もしくはSNSのニュースとか」
酒井が慌てているのが受話器越しでも分かる。いつも冷静で、落ち着いているのに。
「見てねーけど……どうした?」
「帆多留くんの熱愛報道が、流れてて……」
「は?」
飛び起きて布団をはぐって、リビングに向かう。頭痛は止まらなかったけれど、それすら忘れてしまいそうなくらい、動悸がした。
酒井との通話を繋げたままテレビをつけると、出演したこともある朝のニュース番組で、自分の写真と、少し前にドラマで共演していた女優の写真が並べられている。
「人気アイドルグループ、SEASONSのメンバー市瀬帆多留さんと、女優の穹野美良さんの熱愛が発覚しました」
女のアナウンサーが、口角を上げてさぞおめでたいことのようにニュースを読み上げる。
全く身に覚えのないその報道を呆然と見ていると、酒井が早口で言う。
「昨日の週刊誌に記事が出ていたみたいで。本当は、こういうの、事前に分かるはずなのに……。こんな、ニュースにまで取り上げられてしまって。とにかく早急に事務所から否定の文章は出すから、今日のブログでも事実と異なるって文面をまず文頭に書いてもらって――」
酒井の話しが、全然、頭に入ってこない。
なんだこれ……。朝から一気に、わけのわからないことが起きすぎて、立っていられずに、その場にしゃがみ込んだ。
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