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熱愛報道なんてただのでっち上げで、根も葉もない嘘だと言いたい。でも。
――忘れて下さい、俺のことも。
こちらが何かを言う隙もなく、そう言われてしまったことを思い出して、ため息を吐くことしかできなかった。
そういえば、今日は何も食べていない。
IHの電源をつけて、味噌汁の入った片手鍋を温める。
料理なんて普段全然しないせいで、コンロ周りが異様に綺麗だ。
夕希はどうして、あんなことを言ったのだろう。本当にもう、会えないのだろうか……。
スープマグによそった味噌汁を、立ったままキッチンですする。
美味い。二日酔いの胃袋にも、落ち込んでいる気持ちにも、あたたかく染み渡っていく。それがどうしてか、ひどく悲しかった。
報道のことは、もう、消すことはできない。時が経って、世間の記憶から薄れていくのを待つしかない。
けれど。やっぱり、夕希とは、このままなんて嫌だった。
あの笑顔を、もう一度隣で見たい。
もう一度、名前を呼んで欲しい。
マグの中の味噌汁を飲み干して、玄関に向かう。
外に出て、隣の部屋のドアの前に立った。
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