episode5

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   深く息を吸って、インターフォンを押す。  中から聞こえる、ピンポーンという音。少し待ってみるが、応答が無かった。  まだ大学から、帰って来ていないのだろうか。それとも……居留守を使われているかもしれない。  やばい、泣きそうだ。   「夕希……」  情けなくもれた声はただ、独り言になって春の空気に溶けていく。  もう夕希と会えない。それを認めてしまうのが怖くて、そこから動けずにいると、後ろから足音が聞こえた。 「帆多留さん……?」  スーパーのビニール袋を抱えた夕希が、立っている。 良かった。居留守では、無かった。 今朝も会ったはずなのに、夕希の姿を見ることが、とても懐かしい感じがする。 「あ……あのさ、」  また会いたい。そう望んでいたのに、いざ本人を目の前にしたら口ごもってしまう。  夕希は何も言わず、じっとこちらを見つめて次の言葉を待ってくれているらしい。 「俺の、ニュース、見た……?」  眉を潜めた夕希が、「見ましたよ」と言う。言い方が、自分の知る夕希でないことに、帆多留は背筋が冷たくなった。  いつものように温かく包んでくれるような夕希の声色も表情も、どこにもなかった。
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