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「あれ、嘘だから……まじで、付き合ってるとか、ねえから……」
それでも帆多留はどうにか言葉を続ける。
「そうっすか……」
夕希はこちらに足を進めて、けれど帆多留を素通りして玄関の扉を開ける。
「何でそんなの、俺に言うんですか」
あからさまに突き放すような言い方で、怒ったような表情で、そう返されて、帆多留は何も言えなくなる。
……泣くな、泣くな。と、自分に言い聞かせる。
必死に次の言葉を探していると、夕希がまた冷たく言葉を放った。
「俺もう、引っ越すんです。今日、退去の手続きして来たんで」
「え……?」
「最初から、1ヶ月だけの契約だったから、ここ」
夕希の言っていることが理解出来なくて、呆然と見つめることしかできない。
「なので……お世話になりました」
部屋に入っていく夕希に、どうにか足を動かして、鍵をかけられる前に玄関のドアを引く。
靴を脱ぐ夕希が、少し驚いたように目を見張った。
「……俺、好きなんだ、夕希のこと」
今にも泣きそうな声で、そう伝えた。
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