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自分の部屋に帰って一目散に、寝室へ逃げ込む。
ベッドに仰向けになり、窒息しそうなほど枕に顔を押し付ける。
押し潰された自分の嗚咽がどこか遠くで聞こえた。
早くはやく、忘れたい。
夢だったと思えばいい。最初から、仲野夕希なんて存在しなかったのだ。
仕事に疲れて、癒しが欲しくて、勝手に自分で作りあげた幻想の男だったのだ。
まぼろしに恋をしていたのだ。だから今度こそ、忘れてしまおう。すべて。
「今日撮影がなくて良かったな」
翌日、ラジオ放送局に向かうと冬音に無表情のまま言われる。
朝、鏡を見て自分で自分の顔面に引いた。
泣き腫らしたせいで目は腫れているし、情けない顔で、世間に見せられるものじゃなかった。
ラジオ局には、丸いサングラスをかけて出向いたけれど、ふと外した時に冬音に顔を見られてしまった。
冬音の言う通り、本当に、テレビ収録や雑誌の撮影などがなくて良かったと思う。
「そんなに、嘘の熱愛報道がショックだったのか」
冬音に首を傾げられるけれど、「違う。それはもう、いい」と首を振る。
「じゃあ、どうした」
隣の部屋の大学生に振られて泣き明かしました。なんて言えるわけも無く、「別に」と返した。
それ以上詮索してこない冬音の距離感が、今は有難かった。
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