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3本分のラジオ収録を終えて帰る。リビングの時計は午後9時を指していた。
ベランダに出て、煙草をくわえる。
街中の明かりという明かりが点いていて、安っぽいイルミネーションのようだ。
夕希は帰って来ているだろうか。
もう、引っ越すって言ってたよな……。
最初から1ヶ月だけって、こんなタワマンでそんな契約あんのか。
どういう理由があってここに引っ越してきたんだろう。
彼女とどうして別れたんだろう。あの、大きなダンボール箱の中身は一体なんだったのだろう。
考えてみれば、夕希のことを全然知らないことに気付く。
そりゃそうだ。出会ってたった2週間ほどしか経っていないのだから。
それなのに夕希に、心を強烈に惹き付けられてしまった。
人としての憧れの感情と、恋愛感情。
どちらの感情も湧き上がらせてしまった夕希。
どこへ引っ越すのだろう。
こんなに広い街じゃ、きっともう二度と、会えない……。
夜景を見て思う。
会いてーな……。
視界が滲んで、また泣きそうになるのを堪えた。
明日は雑誌の撮影がある。腫れぼったい目でカメラの前に立つのはさすがに避けたい。
煙草の火を消して、リビングに戻った。
そして立て掛けてある、ギターを手に取る。
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