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何が有りなんだよ。帆多留はスルーして、本番まで音楽でも聴こうとワイヤレスイヤホンをバッグから取り出した。
「でも……本当に大丈夫なのか? 本当は帆多留が隣に住んでるって知ってて、近付く口実で挨拶に来たとか――」
耳にイヤホンを入れようとした時、冬音が眉間に皺を寄せて静かに言う。
帆多留の脳裏にはナカノのあの純粋な瞳と、屈託のない笑顔が浮かんで、思わず立ち上がった。
「それは無い。絶対。あいつはそういう奴じゃない」
メンバー全員が呆然とした表情で帆多留に視線を送る。
一気に静まり返った空気に、帆多留はハッとして椅子に座り直す。
たった一度、ほんの1分程しか話したことの無い相手を、何でこんなムキになって庇ってんだよ。
「変に疑って悪い」
すぐに冬音が謝る。
「うんうん、冬音は帆多留のこと心配なんだよね」
咲久が上手くフォローをしてくれた。分かっている、別に、冬音が自分を心配して言ってくれていることくらい。
それでも、少しでもナカノのことを疑われたことに、もやもやは消えてくれなかった。
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