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4人でのステージが無事に終わり、咲久だけが再びメイク室へ呼ばれていく。
今日は咲久の作ったソロ曲を、テレビ初披露する日だ。
今年は、各々の生まれ月に1曲、ソロのシングルを出すことが決まっていた。
SEASONSのグループ名の由来は二つある。一つは、シーズン、つまり季節。全ての季節、365日いつでもファンを魅了させられるグループになるという願いを込めて。
もう一つはメンバー4人がそれぞれ生まれた季節が違うこと。
春生まれの咲久、秋生まれの伊月、冬生まれの冬音。そして夏生まれの帆多留。
全員が同期の同い年ということもあり、仲が良い分何度も喧嘩を繰り返した。そのおかげで、今の絆を築けたと思っている。
メイクを終え、衣装チェンジした咲久がもう一度ステージ裏で待機する。
「やっぱ25歳には見えねえな」
ステージの様子を、伊月と冬音と一緒に楽屋のモニターでチェックする。他のアーティストの曲が終わり、再びステージにあらわれた咲久の姿を見て、伊月がからかうように笑った。
チェックのズボンに、紺色のブレザー、赤いネクタイをした咲久。茶髪のセンターパートの髪型は外ハネにセットされていて、童顔なうえ、いつもより更に若く見える。
この歳にしてすっかり高校生に変身していた。
「4月は出会いの季節なので、学生時代の入学式とかの、どきどきわくわくした感覚を思い出してこの曲を作りました」
司会のアナウンサーから曲のコンセプトを聞かれ、爽やかに答えている咲久。
制服まだまだいけるね、なんて司会からもいじられて笑っている。
そういえば今日、ナカノも大学の入学式だと言っていたっけ。
どこの大学なのだろう。学部は? 学科は? サークルに入ったりするのだろうか? そういや下の名前も知らねーな――。
また自然とナカノのことを考えていることに気付く。……いやいや、もう別に、会うこともないだろうし。
そう考えたら、胸の奥に冷たい風が吹いた。
「もう承知だと思うけど帆多留くんのソロも7月に出したいから、どんなのが良いか考えといてね」
酒井の言葉で意識が浮上し、慌てて「わかった」と返す。
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