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11 アレクサンドル変態疑惑
◇◇◇
「一体いつになったらサリーナに会えるんだっ!もう一週間だぞっ!」
アレクサンドルは苛立ちをぶつけるように執務室の机を叩いた。
「アレクサンドル様、お茶がこぼれるのでやめてください。メイドもいませんしね。これ以上私の仕事を増やしたらキレますよ?」
アレクサンドルはいつになく冷たいゲインの視線にうろたえる。
「あ、ああ、すまない……」
「アレクサンドル様のお気持ちもわかりますが、カルタス女性同盟のレディ達が揃って王宮での仕事を放棄したことで、皆大忙しなんです。毎日男性官僚から苦情が相継いでいます。ジムなんか、やっと結婚できた新婚の妻と会えないと泣いてましたよ?可哀想に……」
「いや、ほんとに、すまないと思っている」
「じゃあつべこべ言わずに手を動かして下さい!私だってエバに会えなくてイライラしてるんですからね!」
「え?エバって?」
「私の婚約者のエバですよ!エバンジェリン!」
「あ、ああ、いつの間に婚約したんだ?おめでとう」
「おめでとうじゃないですよ!何いってるんですか!あんたのせいでいつまでたっても結婚できないんですからねっ!何年待たせてると思ってるんですか!」
「あ、ああ、そうだったのか、すまなかった……」
シュンとなるアレクサンドルを斜めにみながら、ゲインは呆れたように溜め息をつく。
「私はね、アレクサンドル様の素直なところ、好きですよ。真っ直ぐで、自分に正直で」
「……」
「でもね、ときには周りをみてください。ちゃんと相手の気持ちを考えて行動しないと、いつか必ず、取り返しのつかない後悔をしますよ?」
「きっと、それがいまだ」
「でしょうね」
ゲインはふうっと大きく息を吐くと、アレクサンドルに向き直った。
「いいでしょう。これから一時間差し上げます。サリーナ様にきちんと謝罪してきてください。カルタス女性同盟の皆さんが望む謝罪をね。」
「ゲイン!感謝するっ!」
アレクサンドルが慌てて執務室から飛び出していくのを、ゲインは生暖かい目で見守っていた。
◇◇◇
「サリーナ様、こちらは温室で取れた薔薇のオイルです。香りがとても素敵でしょう?」
「本当ね!同じ薔薇でも種類によって全然香りが違うのね」
散歩の後サリーナは、浴室で薔薇のオイルを使ったマッサージを受けていた。リアナのマッサージはまさにゴッドハンドというべきもので、指先が触れる先から心地よさが広がり、身も心もリラックスしていく。
サリーナは薔薇の香りに包まれながら、ウトウトと微睡んでいた。
「サリーナ様、施術が終わりましたらお声掛けしますから、遠慮なく寝てて下さいね」
「そんな、リアナがせっかくマッサージしてくれているのに、寝るなんて悪いわ……」
「ふふふ、私の腕にかかれば誰でも熟睡ですよ!気持ち良すぎて寝落ちされると、逆によしっ!って思いますから。」
「まあ、うふふ、じゃあ、ちょっとだけ……」
◇◇◇
サリーナがふと気がつくと、何だか外が騒がしい。
(あれ?リアナは?)
「ちょっ!ちょっとアレクサンドル様!今はだめです!お帰り下さい!」
「サリーナ!サリーナ!そこにいるんだろう!?」
(あれ、アル様?)
サリーナが半分寝ぼけたまま浴室を出るのと、ちょうどアレクサンドルがリアナを振り切って部屋に入ってくるのが同時だった。
「!!!!!!!!!!」
アレクサンドルが顔を真っ赤にして絶句した瞬間、リアナの絶叫がこだまする。
「こ!こ!こんの変態がぁぁぁぁ!!!!!」
(あ、お洋服着てなかったわ)
サリーナが気付いたときにはすでに遅く、リアナの拳がアレクサンドルの腹にめり込んでいた。
音もなく倒れるアレクサンドル。拳を握り締め、怒りの表情で睨み付けるリアナ。
(え、えーと……)
「と、とりあえずリアナ、落ち着いて。」
「はっ!すみません、お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ。取り敢えずこの変態は王宮に送り返しておきましょう!」
「い、いいのよ!私が裸で出てきたのが悪いのよ」
「いえ、いくら婚約者とはいえ、結婚前の淑女の部屋にいきなり踏み込むとは、紳士にあるまじき行いです!」
「いいの!いいのよ!だって、私はアレクサンドル様の奴隷だもの」
「サリーナ様……」
「アレクサンドル様と、お話がしたいわ?」
「……分かりました。では、きちんとオイルを洗い流して、準備を整えてからお呼びしましょう。取り敢えず、サリーナ様は浴室にお戻り下さい。せっかく良くなってきたのに、風邪を引いてしまいますわ」
「ありがとう!リアナ!」
リアナはアレクサンドルを片手でヒョイっと担ぐと乱暴に部屋の外に放り投げた。
「ちっ!この変態がっ!」
「え?えっ!?リアナ!アレクサンドル様!」
「大丈夫です。アレクサンドル様は異常に丈夫ですから。死にはしません」
「え?ええー……」
「さ、それよりも早くお風呂に入りましょうね。しっかり温もらないと風邪引きますよ?」
(アル様大丈夫かしら……)
◇◇◇
(うわぁぁぁぁぁーーーーー!!!)
ドアの向こうではアレクサンドルが声にならない声を上げて、ひとり身悶えていた。
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