12 私、王妃にはなりませんっ!

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12 私、王妃にはなりませんっ!

   ◇◇◇ 「アル様!お待たせしました!」  サリーナは部屋のドアを少し開けると、ドアの前で座り込んでいたアレクサンドルに、声をかけた。 「サリーナ様!ドアは私が開けますからっ」  浴室の片付けをしていたリアナが慌てて駆け寄ってくるが、またアレクサンドルに乱暴を働きそうだったので、リアナが離れているすきにドアを開けたのだ。 「だって、リアナはアル様、アレクサンドル様に酷いことするんだもの」 「この変態には当然の処置です」 「リアナ、アレクサンドル様は私の恩人なの。酷いこと言わないで?」 「サリーナ様はこの変態に甘過ぎます!もっと厳しくしないと、今後何をしでかすかわかりませんよ!?」 「いや、普通にもう心が折れそうなんだが……」 「ふんっ!軟弱なっ」 「ええー……」  二人のやり取りをサリーナはオロオロしながら眺めていた。なんとか二人を止めようとして、適当な会話を探す。 「それよりアル様、お久しぶりです。お仕事が忙しかったのですか?」 「あ、ああ。サリーナは、体調はどうだ?辛いところはないか?」 「はい!エレン先生のお陰ですっかり元気になりました!」 「良かった……今日は、サリーナに謝りたいと思ってきたんだ」  アレクサンドルの真剣な眼差しにサリーナは首を傾げる。 「謝る?何をですか?」 「俺は、サリーナのことを誤解してひどいことをいった。全ては俺の間違いだった。許して欲しい。」 「ひどいこと?」 「サリーナのことをひどい言葉で侮辱してしまった。おまけに、怖がらせるためだけに、後悔させるためだけに、我が国にありもしないハーレムで、奴隷にするとまでいった。最低だ。」 「そう……そうなのですね」 「俺を、許してくれるだろうか?」  サリーナはにっこりと微笑む。 「許すも何も。アル様に言われたことで怒ったことなどありませんわ」 「俺は、お前に、ひどいことを……」 「ダルメールでは、もっとひどい言葉で罵られ、お仕置きを受けることが当たり前でした。私は、王族という名の奴隷でしたから。だから、アル様が私を奴隷にするといってここに連れて来られたときも、なんとも思いませんでした。またかって思ったくらい」 「……」 「ただ、お腹がとても空いていたから、ここではご飯が貰えるといいなって。本当に、それだけ考えていたんです。」 「そんなの、当たり前のことだ」  アレクサンドルが辛そうに顔を歪める。 「当たり前のことが、私には当たり前じゃなくて。奪われるだけ奪われて、私は空っぽの存在でした。生きる理由も、希望もなかったから、全てがどうでも良かったんです」 「そんなの、間違ってる」 「そうですね。そうかも知れませんね。私の当たり前はここでは当たり前ではありませんでした。私をここに連れてきて下さったこと、心から感謝しています」  サリーナはにっこりと微笑んだ。それは、なんの曇りもない爽やかな笑顔だった。 「サリーナ……俺を、許してくれるのか?」  アレクサンドルがサリーナに近づく。 「怒ってなどおりませんわ」  うなずくサリーナをアレクサンドルは力いっぱい抱きしめた。 「ありがとう!ありがとうサリーナ!」  誰よりも美しく優しいサリーナ。誰もが顔を歪めて罵る傲慢な自分の過ちすら、笑顔で許してくれるサリーナ。アレクサンドルは思った。サリーナこそ女神に違いないと。  自分は間違っていた。自分のほうがよほど子供だった。子供じみた理由で相手の大切なものを奪い取ろうとする、最悪のガキだ。 「サリーナ、サリーナ。俺の女神。俺は、お前を愛している!どうか、俺と結婚してほしい」 「え?……結婚ですか?」  急にすっと体を引いたサリーナにアレクサンドルは慌てる。 「俺とサリーナは、元々婚約者だったんだ。俺と婚約を結んでおきながら、他の国にもサリーナとの結婚を匂わせて金銭を巻き上げていたダルメールが許せなくて、あんなことを……」 「お父様がそんなことを?」 「あ、ああ。サリーナが関わっていなかったことなど、ちょっと調べればわかったはずなのにな。」 「そう……そうですか」 「安心するがいい。ダルメールは滅び、いまや我が国の領地となった。領民となったダルメールの民が安心して暮らせる環境を整えているところだ」 「……」  アレクサンドルはサリーナの足元に跪くと(ひざまづ)右手を差し出した。 「サリーナ、どうか我が妃となって、この国を一緒に治めてほしい。」 「……嫌です」 「……えっ?」 「嫌です!私、王妃になんてなりたくありません!」 「え、ええーーーーーー!!!!!」  アレクサンドルはあまりのショックに固まってしまった。 「失礼します!」  固まったアレクサンドルのそばをすり抜け、走り出すサリーナ。 「あ!サリーナ様!急に走ると危ないですよ!」  そばでニヤニヤしながら二人の様子を観察していたリアナは、急に走り出したサリーナを慌てて追いかけていく。 (ふ、ふられた、のか?……)  後には呆然と立ち尽くすアレクサンドルだけが残された。
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